東山七条から五条へ移転した「茶寮 清水一芳園」。
以前は約30席あった店を、わずか10席の茶寮へ。1945年創業の茶問屋が新たにつくったのは、お茶や甘味はもちろん、器や空間、そこで過ごす時間まで大切にした場所でした。
今回、実際に店を訪れ、新しい茶寮を象徴する「茶甘味八寸」をいただきました。
なぜ30席から10席にしたのか。茶甘味八寸には、どんな工夫が込められているのか。主人の清水 啓さんにお話を伺いながら、新しくなった清水一芳園を紹介します。
東山七条から五条へ。10席になった「茶寮 清水一芳園」

「茶寮 清水一芳園」があるのは、地下鉄五条駅から徒歩約6分。万寿寺通に面した京町家です。
街並みにすっと馴染む外観で、扉を開けると土間の先に庭が見えます。店内にはさまざまな器が並び、客席は畳を敷いたカウンター10席のみ。

新店舗の空間設計を手掛けたのは、「未在」をはじめ、数々の料理店や数寄屋空間を手掛けてきた杉原明氏です。

建具やカウンター、庭とのつながりまで、細かなところにも目が向きます。
どこを見ても丁寧にしつらえられた空間。それでいて、席に着いて庭を眺めていると、自然と気持ちもゆるみます。

そんなカウンターでいただいたのが、「茶甘味八寸」です。
ほうじ茶香るおだしから始まる「茶甘味八寸」

「茶甘味八寸」は3,980円(税込)。季節の甘味に、ほうじ茶香るおだし、揚げ銀杏、飲み物が付いたメニューです。
最初に運ばれてきたのは、甘味ではなく、温かなほうじ茶だしと揚げ銀杏。
おだしを口元に運ぶと、ほうじ茶の香りがふわり。黒七味もアクセントになっています。
甘味をいただく前に、なぜおだしなのでしょうか。
清水さんによると、冷たいものや甘いものを口にする前に、まずは温かなもので胃を温め、味覚と体を整えてほしいという思いから。お茶だけでなく、おだしの香りや旨味も含めて味わってほしいと話します。
当初は、アフタヌーンティーのようにサンドイッチなどのセイボリーを組み合わせることも考えたそうです。
ただ、それでは甘味をいただく前にお腹がいっぱいになってしまう。
そこで、セイボリーの代わりとなる軽い一品として取り入れたのが、このおだしでした。
甘味を楽しむ余白を残しながら、まずは温かな一杯から。清水一芳園が大切にする「香りを味わう」という考え方も、最初のおだしから感じられます。
二つの盆に並ぶ、季節の茶甘味

おだしのあとに登場するのが、二つの盆に仕立てられた季節の甘味です。
抹茶、きなこわらび餅、みかさ(どら焼き)、栗、餡、焼菓子、冷やし葛饅頭、ティラミスなど、その時々の季節に合わせた甘味を少しずつ取り合わせる「茶甘味八寸」。
目の前にずらりと並ぶと、どれから食べようか迷います。
実際にいただいてみると、甘さ一辺倒ではないのも、この八寸の楽しいところ。
爽やかなゼリーがあったり、サクッとしたクッキーがあったり。抹茶を使ったティラミスには洋酒をほのかに香らせるなど、一品ずつ味わいや口あたりが変わります。
清水さんにお話を聞くと、甘味は組み合わせやアレンジも大切にしているそう。柔らかなものばかりが続かないよう、食感にも変化をつけています。
甘さや食感に変化があり、少しずついろいろな味を楽しめました。

茶甘味八寸では、飲み物も好みのものを選べます。今回は抹茶をいただきました。
さらに、抹茶は用意されたお椀の中から好きなものを選べます。色や形の異なるお椀を前に、どれにしようかと選ぶ時間も楽しい。

選んだお椀でいただく抹茶とともに、季節の甘味をゆっくり味わいました。
茶甘味八寸の内容は季節によって変わるため、訪れる時期によってまた違った甘味に出会えそうです。
30席から10席へ。その理由を聞きました

東山七条にあった旧店舗には、約30席がありました。
移転を機に、なぜ10席だけの茶寮にしたのでしょうか。
30席を切り盛りするには、一定数のスタッフが必要になります。忙しい時間帯には店内を動く距離も長くなり、一人ひとりのお客さんに十分なサービスを届ける難しさも感じていたと清水さんは話します。
そこで新店舗では、客席を10席に。
席数を減らす一方で、素材や器、空間、接客まで、一つひとつにきちんと目を向けられる店を目指しました。
話を聞いている中で、清水さんがこんなことを話してくれました。
「いい抹茶を使ったら、全部それに揃えないとダメなんです」
いい抹茶を使うなら、一緒に使う素材も、器も、空間も、それに合うものを。
きな粉ひとつ、敷物ひとつまで妥協したくないといいます。
最初からここまで突き詰めるつもりではなかったそうですが、店づくりを進めるうちに「中途半端なことをしたくなくなった」と清水さん。
30席から10席へ。
単に店を小さくしたのではなく、茶問屋として届けたいものを、きちんと届けるために選んだ10席でした。
上質なしつらえと、おもてなし

数寄屋のしつらえに、選び抜かれた器、庭を望むカウンター。
細かなところまで丁寧につくられた店内ですが、実際に過ごしてみると、かしこまった空気ばかりではありません。
取材中、店内に流れるBGMの話になりました。
選曲だけでなく、音量も「どこが一番居心地がいいか」を考えながら調整しているそう。静かすぎると会話が気になってしまうこともあり、そのあたりも少しずつ微調整しているといいます。
そんな話の中で、清水さんが教えてくれたのが、この店で大切にしているおもてなしについて。
「お客さんに気を使わせたら、それはおもてなしじゃない」
茶席というと作法や形式を思い浮かべるかもしれませんが、清水さんが大切にしているのは、訪れる人に心からリラックスしてもらうこと。
茶室をイメージした数寄屋の空間も、本来座って行うお点前をカウンタースタイルにしたのも、その考えにつながっています。
迎える側と訪れる側、どちらかが必要以上に気を使うのではなく、お互いが心地よくいられること。
BGMの音量や会話の距離感など、目には見えないところまで考えられていることを知ると、ここで感じた居心地のよさにも納得できました。
五条でゆっくり味わう、お茶と甘味の時間

庭を眺めながら、お茶と甘味を一品ずつ。
茶甘味八寸はもちろん楽しみにしていましたが、実際に訪れてみると、ここで過ごす時間そのものも心に残りました。
街並みに馴染む町家に、土間や器、庭を望む10席のカウンター。清水さんとの何気ない会話も心地よく、気づけばすっかりくつろいでいました。
空間だけでも、来てよかったと思えるほど。
そこに、茶問屋が素材や香り、食感まで考えて仕立てた茶甘味八寸と、おいしいお茶が加わります。
少し特別なお茶の時間を過ごしたい日に、また訪れたい。
誰かにも教えたくなる、五条の一軒です。
茶寮 清水一芳園 店舗情報
店名:茶寮 清水一芳園
住所:〒600-8067 京都市下京区万寿寺通堺町東入堅田町567-1
アクセス:地下鉄烏丸線「五条駅」から徒歩約6分、京阪本線「清水五条駅」から徒歩約9分
営業時間:11:00〜17:30(最終入店16:30)
定休日:毎週火曜日 ※臨時営業・振替休業あり
席数:畳敷きカウンター10席
予約:可
予約サイト:TableCheck
※空席があれば予約なしでも入店可能。当日も来店30分前まで予約できます。営業日・営業時間は変更となる場合があるため、最新情報は公式Instagramなどをご確認ください。
なお、清水一芳園では今後、昼の食事メニューや夜営業も展開予定です。昼には「五菜二膳のだし茶漬け」を用意し、夜は茶甘味やお茶漬け、おばんざい、お茶を使ったスイーツカクテルなどを楽しめる「夜の茶寮」も構想しています。
昼のお茶と甘味だけでなく、食事や夜の時間へ。これからこの10席で、どんな楽しみ方が広がっていくのか楽しみです。
※本記事は編集部が取材・体験した内容をもとに構成しています。最新情報や詳細は公式サイトをご確認ください。京都観光の予定にあわせて、ぜひ参考にしてみてください。
編集・文・写真:京都のいちばんち

