「禅とジブリ」。その組み合わせを聞いて、どんな展覧会なのだろう、禅の知識がないと難しいのでは、と感じる人もいるかもしれません。
編集部も会場へ入る前は、「禅とは何かを理解しなければ」と少し身構えていました。けれど、実際に巡ってみると、そんなふうに構える必要はありませんでした。
青サギに導かれ、異世界への扉が並ぶ「時の回廊」へ。トトロやサギ男をはじめ、おなじみのキャラクターとの出会いや、細部まで作り込まれた空間に心が弾みます。
2026年10月3日(土)から12月6日(日)まで、京都市京セラ美術館の新館 東山キューブで開催されている「禅とジブリ」京都展。内覧会で会場を巡り、「どう見ればいい?」「禅って難しそう」という疑問を手がかりに、その楽しみ方を探りました。
「禅とジブリ」京都展、どう見ればいい?

「どんなふうに見てほしいですか」という問いに、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは、見方を限定するような答えを示しませんでした。

大切なのは、展示を見て自分で感じること。それぞれが受け取ったものが、その人にとっての答えになるという趣旨の言葉でした。
禅について勉強してから行かなければならないわけでも、展示に込められた意味を一つ残らず読み解く必要もありません。
好きなキャラクターに会えてうれしい。空間の作り込みに驚いた。映画のある場面を思い出した。今の自分に響く言葉があった。どの入り口から楽しんでもよいのだと思うと、「禅とジブリ」という題名がぐっと身近になります。
なお、開幕前日に行われた鈴木さんと応援団長・石田ゆり子さんの開会式の様子は、「禅とジブリ」京都展の開幕記事で紹介しています。

青サギに導かれ、ジブリの「あっちの世界」へ

本展の中心にあるのは、宮﨑駿監督の映画『君たちはどう生きるか』です。
主人公・眞人は、のちに相棒となる青サギにそそのかされ、自らの内面と向き合うように「あっちの世界」へ。さまざまな困難をくぐり抜け、「こっちの世界」へ戻ってきます。
会場では、『君たちはどう生きるか』の世界を中心に、ジブリ作品を通して禅に触れていきます。

青サギに導かれ、「太陽の間」から「時の回廊」へ。通路に並ぶいくつもの扉を開けると、『ハウルの動く城』や『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』など、さまざまな作品で描かれた「あっちの世界」が広がります。

なかには、鈴木さんらのサインが並ぶ壁につながる扉も。どの扉の先に何が待っているのか、ぜひ実際に開けて確かめてみてください。

青サギの存在や扉の一つひとつ、足元や壁面に施された装飾など、思わず立ち止まりたくなる仕掛けがあちこちに。作品を知っているからこその発見もあり、次は何が現れるのだろうと自然に足が進みました。

ギャラリートークで解説したスタジオジブリの橋田真さんによると、「禅そのものを展示する」ことは難しく、最終的に禅的な要素を感じられるジブリ作品を軸に構成したそうです。
難しい説明から入るのではなく、まずは映画の世界を歩き、作品や言葉に触れる。その体験の先で、禅へ少しずつ近づいていけるような展示になっています。
トトロとサギ男がお茶を飲む「お茶をどうぞ」
第1章を抜け、「お茶をどうぞ」へ向かう途中にも遊び心のある仕掛けが。何気なく目を向けると、風景の中にひっそりと隠れたトトロを発見しました。気づかず通り過ぎてしまいそうな場所にいるので、ぜひ会場で探してみてください。

第2章「お茶をどうぞ」では、トトロとサギ男がお茶を飲みながら迎えてくれます。

かわいらしい姿に出会えるのはもちろん、ここで紹介されるのは、宮﨑監督と鈴木さんが日頃交わしている会話です。
多くのジブリ作品は、二人の間で繰り広げられる、禅問答のような会話から生まれてきたといいます。

橋田さんは、二人が過去や遠い未来の話ではなく、今、世界や日本、ジブリで何が起き、何を感じているのかを話し合っていると説明しました。会場で耳を澄ますと、実際のやり取りも聞こえてきます。
どこへ話が向かうのだろうと思いながら聞いていると、思わず笑ってしまう場面も。トトロたちに会えた喜びと、映画が生まれる舞台裏をのぞく面白さが、一つの空間に詰まっていました。
鈴木さんは、宮﨑監督を「今ここの人」と表現しています。過去や未来にとらわれず、目の前のことに向き合う「今、ここ」。二人の仕事や会話を通して見ると、禅の考え方が少し身近に感じられます。
ジブリ禅画から、作品と禅のつながりを考える

第3章「生まれるところ」では、鈴木さんが描いたキャラクターの絵に、野沢龍雲寺の細川晋輔住職が禅の言葉を添えた「ジブリ禅画」などが並びます。
たとえば、『もののけ姫』のサンに添えられた言葉は「両忘」。橋田さんは、善と悪、生と死など、二つに分けて対立させる考えから離れる意味があると説明しました。

『もののけ姫』の終盤で、サンとアシタカは同じ場所で暮らす道を選ぶわけではありません。それでも「共に生きよう」とする二人の姿に「両忘」という言葉を重ねると、知っていた物語にもう一つの見方が加わります。

好きなキャラクターの絵から入り、添えられた言葉を読み、映画の場面を思い返す。禅語だけを目にしたときよりも、自分なりに意味を考えやすく感じました。

会場には、ジブリのキャラクターをかたどった起き上がりこぼしもあります。何度倒しても起き上がる姿は、達磨や「七転び八起き」へ。かわいらしい造形を楽しんだ先に禅との接点が隠れていることも、この展覧会の面白さです。
禅とは? 日々の暮らしの中にもあるもの
展示は、ジブリ作品の世界から、禅そのものへと少しずつ近づいていきます。
第4章の題名は「それぞれの禅」。会場の解説では、禅は本来、特定の仏教宗派だけを指すものではなく、「本当の心」を探求する言葉だったと紹介されています。
禅寺では、坐禅だけでなく、掃除や食事といった日常の営みを通して余計なものを取り払い、「本当の心」に近づこうとします。
こうして見ると、禅は特別な場所で難しい修行をすることだけではなく、日々の仕事や暮らしにもつながるものなのかもしれません。
会場では、禅を「ZEN」として海外へ伝えた鈴木大拙や、人生そのものを心を磨く修行と捉えた京セラ創業者・稲盛和夫も紹介されています。一つの正解を示すのではなく、さまざまな人の生き方を通して「それぞれの禅」に触れられる章です。
鈴木敏夫さんの言葉「どうにかなることはどうにかなる」

最後の第5章は「この時代をどうやり過ごすか」。高畑勲監督、宮﨑監督、鈴木さんが、スタジオジブリで映画づくりを続けてきた約40年。時代と向き合いながら生み出してきた作品や言葉に触れます。
その中で並ぶのが、鈴木さんの書画です。

自身が大切にしている言葉の中から、最も大事なものを尋ねられた鈴木さんは、「どうにかなることはどうにかなる」と答えました。
何とかしなければと力が入りすぎているときには、少し違った響き方をする言葉です。今の自分ならどう受け取るだろう。そんなことを考えながら、この言葉の前で足が止まりました。
橋田さんは、禅語や鈴木さんが大切にしている言葉を一つでも二つでも持ち帰り、この大変な時代をうまくやり過ごす手がかりにしてもらえたら、と話します。
ただし、同じ言葉がすべての人に同じように響くわけではありません。別の書画やキャラクター、何げない会話が心に残る人もいるでしょう。それぞれの答えでよいという鈴木さんの話が、ここで改めて重なりました。
なぜ「禅とジブリ」展は京都から始まったのか
「禅とジブリ」は、全国への巡回を見据え、京都を第1会場として始まりました。
橋田さんは、京都で始める理由として、禅が日本文化や日常生活に深く根づいていることを挙げました。
茶や花、和食、建築など、私たちが日本的、京都的だと感じる文化には、禅から影響を受けたものが少なくありません。スタジオジブリとしても、京都での開催を熱望していたそうです。
本展の原点となったのは、鈴木さんと3人の禅僧との対談をまとめ、京都の出版社・淡交社が刊行した書籍『禅とジブリ』。京都で生まれた一冊が展覧会となり、再び京都から始まることにも縁を感じます。
会場を出たとき、京都が第1会場であることに素直に納得できました。
普段目にしている寺院や庭、京都で親しんでいる文化を、もう一度違った角度から見たくなる。美術館の中で出会ったものが、外に広がる京都の風景にもつながっていくような内容でした。
会期中は、京都の対象寺院を巡る「ジブリ禅画スタンプラリー」も実施されています。
「禅とジブリ」展の楽しみ方|QRガイドを手がかりに

会場の展示は、キャラクターや作品との出会いを楽しむだけでも十分に心が躍ります。その場で気になったものをもう少し深く知りたいときは、QRコードから読めるガイドが手がかりになります。
ガイドでは、「あっちの世界、こっちの世界」「お茶をどうぞ」「生まれるところ」「それぞれの禅」「この時代をどうやり過ごすか」という全5章の流れに沿って、展示の背景や言葉を解説しています。
最初からすべてを理解しようとせず、まずは空間やキャラクターとの出会いを楽しむ。気になる作品や言葉を見つけたら、QRガイドを読んでみる。そのくらいの距離感で巡ると、「禅とジブリ」という組み合わせが少しずつ自分の中でつながっていきました。
「禅って難しそう」と感じている人も、まずは好きな作品に会いに行くような気持ちで訪れてみてはいかがでしょうか。自分の足が止まる場所や、心に残る言葉を探すことが、この展覧会の楽しみ方なのだと思います。
展示の余韻を持ち帰れるグッズも

会場には、「禅とジブリ」の世界を楽しめるグッズ売り場もあります。展覧会を巡ったあとに立ち寄ると、展示で心に残ったキャラクターや言葉を、もう一度違った形で楽しめます。

限定ショッパーも用意されているので、グッズとあわせてチェックしてみてください。
「禅とジブリ」京都展の会期・料金・会場

展覧会名:『禅とジブリ』京都展
会期:2026年10月3日(土)~12月6日(日)
会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
所在地:京都市左京区岡崎円勝寺町124
時間:10:00~18:00(最終入場17:30)
休館日:月曜日 ※ただし、10月12日(月・祝)と11月23日(月・祝)は開館
当日観覧料:一般・大学生1,900円、中学・高校生1,500円、小学生1,100円。未就学児無料。いずれも税込
公式サイト:https://zen-ghibli.jp/kyoto/
※会場内には撮影可能なエリアと撮影不可のエリアがあります。現地の表示やスタッフの案内をご確認ください。
※本記事は2026年10月2日の内覧会取材・体験をもとに編集部が作成しました。最新情報や詳細は公式案内をご確認ください。
編集・文・写真:京都のいちばんち/展示画像 © Studio Ghibli

