京都・下京区・西大路七条に、八代目儀兵衛の旗艦店「炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」が9月末にオープン。創業の地に本社と飲食店舗を構えた背景には、「お米文化をもう一度、京都から発信したい」という橋本儀兵衛社長の思いがありました。
取材では、店づくりの理念から、業界初の20分で炊き上げる土鍋ごはん、そして、にぎりめしや精米の“買う体験”まで、OMOYAの全貌を伺いました。
八代目が選んだ“創業の地”での再出発に込めた思い

取材の冒頭、橋本社長は次のように語りました。
「スティーブ・ジョブズがガレージで会社を創業したように、私もこの家業の下の台所で創業した。八代目を名乗る以上、先祖に恩返しをしたいと思ったんです。」
京都・西大路七条は、かつて商業が盛んだった地域。時代とともに人通りは減ったものの、「強いコンテンツがあれば人は集まる」という信念のもと、この地を本社兼店舗としました。
OMOYAは、単にお米を販売したり、ごはんを提供するだけの場所ではありません。
お米の美味しい食べ方を伝え、子どもから大人までが学べる食育の場として、そしてお米を中心に社会へ貢献していく“旗艦店”としての役割を担っています。
京都・西大路七条という創業の地から、お米を軸に地域が循環する仕組みを生み出し、地域再生や地方創生につながる新しいモデルづくりを目指しています。
“未来のお米屋”を体現する三つの柱
OMOYAのテーマは「食べる・学ぶ・買う」。一人一釜の炊き立てごはんを味わうだけでなく、炊飯や食文化を学ぶ「米育」、精米やにぎりめしを通じてお米を“持ち帰る”体験までを提供します。お米離れが進む今、「食べるだけでは終わらないお米体験」を目指しています。
【食べる】業界初の20分炊き──技術が支える“ちょうどいい待ち時間”

OMOYAでは、祇園・八坂の既存店とは異なり「一人一釜」の土鍋炊飯を導入。通常30〜40分かかる土鍋ごはんを、試行錯誤の末に“20分”で炊き上げる独自方式を確立しました。
「弱火では甘みが出ず、強火だと焦げる。そのバランスを火加減と釜の厚みで調整しました。20分ならお客様も待てる時間。そこにこだわりました。」(橋本氏)
一合炊飯の難しさを克服したことで、食べる瞬間に最高の香りと甘みを届けられるようになりました。
昼の贅沢──“翁霞”で味わう至福の一膳

使用米は、最上級ブレンド「翁霞(おきなかすみ)」。希少米「夢ごこち」をベースにブレンドし、濃厚な甘みと粘りが特長です。20分で炊き上げるため、火の当て方・火力・水加減を徹底検証。炊き立てのごはんは一粒一粒に甘みと弾力があり、口に含むたび香りが広がります。
お膳には、京都の造り酒屋から届く酒粕を使った粕汁が添えられ、0.01mmに削った本枯鰹節の演出も。出汁をかけてお茶漬けにすれば、最初の一口から最後の一滴までお米の魅力を余すことなく楽しめます。
▶︎メニュー(一例):ごはんのお供極み御膳 2,480円(税込)/京風 鯖の味噌煮こみ御膳 1,780円(税込)


取材当日10月14日現在、お昼は予約で満員御礼状態とのこと。社長が語る「強いコンテンツがあれば人は集まる」という言葉どおり、すでに多くの人が訪れています。
夜の愉しみ──“旨み土鍋ごはん”が主役のひととき
夜のテーマは「ごはんを究極に愉しむ」。
ここでは、炊き立てごはんを中心に据えながら、お酒と共に楽しむ“ごはんの合う逸品”を提供しています。
昼が「お米そのものの甘み」を堪能する時間だとすれば、夜は「具材と出汁が重なり合う旨み」を味わう時間。一日の締めくくりに、落ち着いた灯りとともに土鍋ごはんを待つ時間そのものが、特別な体験になります。
<編集部の試食メモ>
今回、メディア向けの体験会が行われ、編集部も夜の提供メニューの一部を実際に試食しました。
(昼の御膳とは異なり、夜はお酒と共に楽しむ“ごはんの合う逸品”が中心です。)

まずいただいたのは、揚げ物や炉端焼き、牛すじ煮込み小鍋。
土鍋ごはんの炊き上がりまでの約20分間、少しずつつまみながら待つ時間も楽しみのひとつです。

揚げ物の中では、手羽先唐揚げが特に印象的。12〜24時間かけて熟成乾燥させた鶏肉を揚げており、外はカリッと香ばしく、中は旨みが凝縮された仕上がりです。

炉端焼きでは、自分で焼き加減を見ながら、炭火の香りとともに魚や野菜を楽しめました。
体感としては、20分はちょうどよい待ち時間。いろいろな料理を味わいながら過ごしていると、炊き上がりのタイミングが自然に訪れます。
看板の「旨み土鍋ごはん」が登場

やがて運ばれてきたのが、「鶏の炭火焼〜山椒みそ添え〜」。
蓋を開けた瞬間、炭火の香ばしい香りがふわりと広がり、湯気とともに炊き立てのごはんが顔をのぞかせます。炭火で焼かれた鶏の香りと、ほっくりとしたさつまいもの甘みをお米が包み込み、別添の山椒みそをつけると、ピリッとした辛みが後味を引き締めます。お焦げの香ばしさも心地よく、箸が止まらない一釜でした。

続いて登場したのは、「炭火香るふっくら焼き鮭ときらめくイクラ」。
ふっくらと炊き上がったごはんの上に、炭火で焼いた鮭と艶やかなイクラが彩りよく盛りつけられています。鮭の香ばしさとイクラの塩味がバランスよく重なった、必食の一釜。
ひと口ごとに米の甘みと旨みが増し、見た目の華やかさだけでなく、味わいでも“米が主役”であることを実感できました。
和のぬくもりの中、お米を味わう贅沢な空間

さらに店内は、伝統的な欄間が印象的な端正な和の空間。木の質感とやわらかな照明が調和し、炊き立てごはんの香りをより引き立てます。静かな時間が流れ、食事を丁寧に味わう空気が漂っていました。
【学ぶ】大人のための「米育」プログラム

子ども向けに行ってきた食育プログラム「my taste」を拡大し、大人も対象にした「大人の米育」を新設。炊飯器・鍋・土鍋の比較実演や、出汁・発酵・日本酒とお米の関係などを体系的に学べます。修了者が講師や商品開発に関わる「儀兵衛アンバサダー」構想も進行中。開催は日本語が基本で、インバウンド対応は今後検討とのことです。
【買う】にぎりめしと精米で広がる、“買う体験”
にぎりめし

もう一つの柱が「にぎりめし」。翁霞を大釜で炊き、ふんわり手で握る設計です。「塩にぎり」は炊飯時に塩を加える“前塩製法”で、一粒の中に甘味と塩味が共存。
人気No.1は「米屋の塩むすび」(150円)、一方で従業員人気No.1は「やみつきふわとろ おかか」(280円)とのこと。外側に削りたての鰹節をまぶし、中には梅としば漬けが入り、いいアクセントになっている一品です。
テイクアウトして近くの梅小路公園で楽しむのもおすすめ。
お米の持ち帰り・ギフト

店頭では、飲食で使用している「翁霞」をはじめ、全国の希少銘柄米や限定品を販売。玄米を選び、その場で低温精米してもらえます。摩擦熱を抑える低温精米で、甘みと粒立ちを守るのが特徴。
贈答用の包装や熨斗に対応するギフトサロンも併設しています。
まとめ:京都の人にこそ味わってほしい、“炊き立て土鍋ごはん”

OMOYA 八代目儀兵衛は、京都の創業の地で“お米の魅力”を改めて伝えるために生まれた旗艦店。
20分で炊き上げる土鍋ごはんや、手で握るにぎりめしなど、一膳ごとにお米の甘みと香りを丁寧に引き出しています。
観光客だけでなく、京都に暮らす人にこそ足を運んでほしい場所。
日常の中で忘れかけていた“炊き立てごはんの美味しさ”を、静かな空間でゆっくり味わえるお店です。
店舗情報・アクセス
- 店名:炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛
- 所在地:京都市下京区西七条北衣田町10 1F
- アクセス:市バス「西大路七条」徒歩3分/JR京都線「西大路駅」徒歩15分/提携駐車場6台
- 営業時間:お食事処 11:00〜21:30(L.O. 20:30)/ショップ(お米・おにぎり)10:00〜18:00
- 定休日:火・水(不定休あり)
- 席数:22席(個室あり)
- 予約有無:要予約 ※予約サイトはこちら
- 公式サイト:https://hachidaime.com/omoya/
※本記事は編集部が取材および実食体験をもとに構成しています。取材時に提供メニューの試食を行いました。最新情報や詳細は公式サイトをご確認ください。京都観光の予定にあわせて、ぜひ参考にしてみてください。
編集・文・写真:京都のいちばんち 一部写真:株式会社八代目儀兵衛より提供