かつて京都・北区のまちに愛された銭湯「明治湯」が、地域の声に支えられ、「明司湯(めいじゆ)」としてよみがえりました。
老朽化により惜しまれつつも閉業したその場所を、もう一度“地域のよりどころ”として蘇らせたい──。そんな想いのもと立ち上がった「京都銭湯甦生プロジェクト委員会」によって、約1年の歳月をかけた再生プロジェクトが始動。
2025年8月、ついにオープンを迎えた「明司湯」は、サウナのクオリティや空間設計に徹底的にこだわった、“銭湯2.0”という新しい形の温浴施設です。
サウナーも、地元の常連も、風呂上がりにビールで語らいたい人も──
世代やスタイルを超えて、今日ここに「ちょっと特別な一日」が生まれます。
“男性専用”という新たな選択が生んだ、ゆとりある空間

「明司湯」の大きな特徴のひとつが、基本的に男性専用の銭湯として再スタートを切ったこと。
とはいえ、ただ利用者を絞ったというわけではありません。もともと男女で分かれていたスペースをひとつにまとめることで、これまでにない“ゆとり”をつくり出したのです。
その結果、サウナも脱衣所も浴室も、どこも広々。
のびのび過ごせる贅沢な空間が誕生しました。
サウナ好きもうなる、こだわりの“ととのい”体験
空間の広さを活かしながら、とことん追求したのがサウナと水風呂の質感。快適さを高めるための工夫が、細部にまでしっかりと施されています。
・ゆったり座れるボナサウナ

全長7メートル、定員20名のサウナ室は、ただ広いだけじゃありません。
座る高さや位置によって、温度や蒸気の感じ方が変わる3つのエリアが設けられていて、その日の気分や体調に合わせて、自分だけの整い方を見つけられます。
- ぶらんエリア(高温):1mの高さで、足を浮かせて“ぶらん”と座れる高温エリア

- ねっぱエリア(中温):70cmの位置に設けられた中温帯で、スチームの直撃を体感できるゾーン。

- あぐらエリア(低温):洞窟のような静かな空間で、熱の当たりもやわらかく設計。

・ちょうどいい16℃の水風呂
水風呂は、冷却装置で通年16℃をキープ。
冷たすぎず、ぬるすぎず、思わず「これこれ…!」と声が出そうな気持ちよさ。交代浴にもぴったりです。
・肌にやさしい、清潔な浴室
浴室はほぼ全てのタイルを新調し、清潔感あふれる空間に。
さらに、お湯には軟水を使っていて、肌への刺激が少ないのも嬉しいポイントです。
新旧が共存する、懐かしさと居心地の良さ

リノベーションを経て生まれ変わった明司湯には、新しさの中に、どこか懐かしい空気が流れています。
昔ながらの銭湯の記憶をさりげなく残しながら、現代の利用者にとっても心地よい空間が丁寧につくられていました。
・脱衣所に残る“記憶のかけら”

かつて男女で分かれていた壁は取り払われ、脱衣所は広々とした開放的な空間に。
ロッカーの番号が赤と黒で色分けされていた名残や、レトロな鍵がそのまま使われている様子から、どこか懐かしさと親しみを感じさせます。

また、80kgまでしか測れない体重計や、瓶入り牛乳用の冷蔵庫なども、あえてそのまま活用。設備更新の中で、懐かしい記憶の手触りも大切にされています。
・湯あがりに生ビール!「番台酒場」も

脱衣所を出てすぐの場所には、生ビールを楽しめる“番台酒場”を併設。サウナや入浴でしっかり汗を流したあとに、すぐ乾杯できるという、ちょっとした贅沢が用意されています。

2階には、くつろぎの共用スペースも

階段を上がった先には、飲み物を片手にゆったりと過ごせる共用の休憩スペースが用意されています。
入浴後のクールダウンや、サウナ談義に花を咲かせる場としてもぴったり。
広すぎず狭すぎない空間だからこそ、自然と会話が生まれるような、ちょうどいい距離感が魅力です。
「明司湯」という名に込めた決意と継承

かつて、京都市北区のまちで長く親しまれていた「明治湯」。
その屋号を受け継ぎながら、名前を一新した「明司湯(めいじゆ)」には、単なる施設の再出発以上の想いが込められています。
この改名の由来は、「京都銭湯甦生プロジェクト委員会」の発起人であり、本プロジェクトを率いた坂口祐司さんのお名前から取られたもの。
もともと住宅建築会社を営む坂口さんは、「明治湯」の土地が売りに出されたことを知り、「この場所を、もう一度地域に開かれた場として残したい」という強い想いからプロジェクトを立ち上げました。

「名前を使うことで、自分の責任をしっかりと持ちたかったんです」
(坂口さん談)
と語るように、“司”の一文字には、地域と向き合いながら、この場所を未来につなげていく覚悟が託されています。
また、読みはそのまま「明治湯(めいじゆ)」。
長年この銭湯を愛してきた地元の人たちにとっても、名前の響きが変わらないことが、ささやかな継承のかたちとなっています。
かつての記憶と、新たな物語。
「明司湯」という名は、その両方をそっと包み込みながら、これからの地域の拠点を象徴する存在として歩みはじめています。

また、この理念は空間の設計にも表現されています。
脱衣所から銭湯酒場、そして2階の共用スペースへとつながるエリアは、建物全体を吹き抜け構造にすることで、声が通り、人の気配がゆるやかに行き交うように設計されています。
それはまさに、「人が出会い、語らい、暮らしと地続きの文化が芽吹く場所」という構想を体現するつくり。
音や気配を遮らず、人と人の存在を感じられる設計が、ここで生まれるつながりの土台になっています。
今日は、明司湯という選択を。

明司湯は、毎日通う銭湯ではないかもしれません。
でも、「今日はちょっと特別にしたいな」そんな気分のときに、ふと思い出してもらえる場所でありたい。
ととのいたい日も、友人と語りたい夜も、静かに汗を流したいひとりの時間も。
“もうひとつの拠点”として、明司湯はそっと寄り添ってくれます。
営業時間・利用情報

- 営業時間:平日 14:00〜26:00/土日祝 8:00〜26:00
- レディースデイ:第2・第4水曜日
- 定休日: なし
- 入浴料:大人 880円/中人 (6歳〜12歳) 440円/小人(〜5歳) 220円
- レディースデイ 大人 780円
- 住所:〒603-8225 京都府京都市北区紫野西藤ノ森町1-2
- 駐車場:なし
- 支払い方法:現金、各種クレジットカード、電子マネー、QRコード決済などが利用可能
- レディースデイについて: 今後、毎月第2・第4水曜日に実施予定。詳細は明司湯の公式サイトやSNSでご確認ください。

写真・文・編集:京都のいちばんち編集部